NHKドラマ『対決』は秀作,『まぐだら屋のマリア』は?

 2026年4月から5月にかけて放送されたNHKBSのプレミアムドラマ『対決』(原作: 月村了衛,脚本:渡邉真子,演出:池田千尋,小菅規照)の主役は,新聞記者の檜葉菊乃(松本若菜)と医大の女性理事神林晴海(鈴木保奈美)である。この医大では,長年,女子受験者に一律減点を行ってきた。その事実を檜葉は知り,記事にしようとするが,決定的な証言が必要である。そこで,事務職員として働き方の改革などを進め,人望があり,正義感が強いとみなされる神林理事に証言をさせようとした。しかし,神林理事は,檜葉に取材をやめさせる方向に出てくる。

 一応,対決は解消して,ハッピーエンドとして終わるが,背後の問題は残る。一つは新聞社や大学など旧来からある組織の中での女性差別,あるいは蔑視であるが,こちらは多少改善される。もう一つは医師養成や労働の仕方の問題である。後者について,医大の医師たちは,女性の医師を養成しても,出産,育児に時間がとられることが多く,外科や救急などの激務が多い医療に従事することが少ないので,男子受験生を優先することになるのは,止むを得ないと主張する。当然,ドラマではこのことに答えることはできず,問題の構図を示して終わっている。新聞記者として男性優位の中で,難儀な仕事をこなしつつ,娘を育て,医大を受験させようとする檜葉本人には正義についてではなく,この問題について語らせればよかったのではないか。

 また,例えば,医師免許を取得して2年間の初期臨床研修を終えた後、内科や外科などの一般診療科を経験することなく,直ぐに美容医療の世界へ進む医師(直美)が徐々に増えているという別の問題もあることを指摘してもよかったように思った。

 主人公の松本若菜は台詞以外で内心を表現できていた。

 それに比べて4月からNHK総合テレビで再放送された『まぐだら屋のマリア』(原作:原田マハ,脚本:小寺和久,演出:長崎俊一)は底の浅いドラマだった。「罪を負った者たちの『業と贖罪と再生』」と仏教用語とキリスト用語が混ざりあい,しかもマグダラのほか,姓や名前にシモン,ユダ,ヨハネなど新約聖書の人物名を脈絡なくちりばめていた。死にたくなった人間が北の極寒の地にたどり着くはずという陳腐な設定である。そこには僻地のはずながら繁盛する居酒屋「まぐだら屋」があって,その店主が罪を背負った有馬りあこと尾野真千子だった。マリアに罪を背負わせていいのだとうか。

 尾野真千子は普段通りだった。