大相撲のロンドン公演は,大成功のうちに終わった。1991年以来34年ぶり2度目だが,チケットが完売し,満員御礼の垂れ幕がかかっていた。事前の報道が少ないと心配していたが,日本のテレビや新聞でも頻繁に取り上げられ,NHKのニュースを検索するとしぶしぶと3回ほどニュースで短く伝えた。朝日新聞や日本経済新聞は,二回ほど記事を掲載した。
日本から英国に向かったのは,怪我で休場の琴桜関を除く全幕内力士のほか,親方衆,行司,呼び出し,床山,付け人など112人とのこと。会場のロイヤル・アルバート・ホールでは,呼び出したちによって中央に英国の土を使った土俵が作られ,日本から持ち込んだ屋根がつり下げられ,その周囲には,国技館の半分近い5,400人収容の座席が用意された。
そして,事故もなく五日間の取組がなされて,豊昇龍が優勝した。人気が一番だったのは,日本と同じ宇良関で,一見小柄で,「URA」と呼びやすく,ピンクのまわしもよかったらしい。その宇良関は3日目に湘南乃海関と対戦して「伝え反り」で勝利し,大きな拍手を得たのをニュース番組で観た。この取組の途中で宇良関のまわし結び目がゆるみ「まわし待った」がかかる場面があった。
気になったのは,ここである。これは,「待った」という特別な中断をわざわざ見せるための演出だったのではないか。特に宇良関の時というのが怪しい。さらに豊昇龍関の優勝や安青錦対宇良戦での「腕捻り」という珍しい技を含め,全体に演出が及んでいるのではないかと思った。第一,力士の側からみれば,ここで怪我をするのは避けたいはずである。そして,全体に準備や進行がスムーズなのは,国内の地方巡業があるからで,ロンドンの公演も一種の地方巡業という位置づけになっているようだ。NHKなどが大きく扱わないのは,普段は演出色の強い地方巡業は取り上げていないからではないか。
しかし,本当のところはわからないし,相撲には興行的な側面もあるわけで,本場所でも全取組で双方の力士の全力が出ているとは思えない。
それよりも,土俵入りから弓取り式までの儀式,化粧まわしや黒紋付などの衣装,どれをとってもキリスト教とは異なる宗教的な雰囲気があり,場内で解説されている相撲の長い歴史をきけば,ケルトやローマ時代からの英国の伝統と親和性を感じる英国の人々もいるだろう。また,ロンドン市内を浴衣姿で観光客気分で歩き回る気のいい力士たちは好感を持たれたはずである。英国,ロンドンでよかったのではないか。
2019年に来日した第一期のトランプ大統領は,5月場所千秋楽の終わりに1時間ほど大相撲を見物し,優勝した朝乃山関に優勝杯を授与した。このときのトランプ大統領は,明らかに取組で力水をつけてから立合いまでの長い時間に退屈していた。相撲を理解しよう,関心を持とうとしてはいなかった。トランプ氏で米国民を代表させることはできないが,大相撲の米国公演には不安が残る。トランプ氏から優勝杯をもらったことがその後の朝乃山関の不運に影響していなければよいが。
来年にはパリ公演があると発表されている。