NHK連続テレビ小説『あんぱん』の脚本家は,やなせ たかしの半生,日中戦争で日本軍が行った加害,それに愛国教師の戦後における転向を取り上げたかったようだ。他人との距離がうまくとれず,マザーコンプレックスのやなせ たかしが,漫画家,詩人,今で言えばクリエイターとして豊かな才能を発揮する過程がよく捉えられていた。日中戦争における日本陸軍については,直截に描くことは難しい中で,飢餓,餓死への言及があり精一杯の工夫がなされていた。問題は,本来の主人公の暢で,戦前と戦中には教師に強く感化され,生徒に愛国精神を植え付けていたが,戦後には,「逆転しない正義」を口先で求め,さらに夫の創作である「あんぱんまん」を無理矢理に広めようとするだけだった。
ドラマとしての『あんぱん』は薄味だった。全体にエピソードが少なく,また,人物の造形に弱点があった。エピソード不足は終盤になって顕著で,以前の登場人物をあまり意味なく,再登場させていた。一人一人の人物に深みがなく台詞が少ない。同じような場面を繰り返して時間稼ぎをしていた。また,テンポもよくない。ただ,時代考証は念入りで戦前から戦後までの情景は良く再現されていたのではないか。
一方,再放送『とと姉ちゃん』を熱心に観ている。2016年の本放送時には観ていなかった。ともかく次の回が待ち遠しい。「とと姉ちゃん」こと大橋鎭子が,言葉に鋭い感性を持ち,コピーライターの元祖,企画力に優れ,画家でもある奇人花森安治を雑誌編集に引き入れ,『暮しの手帖』を創刊するまでに回数を費やしても納得できる。『あんぱん』では,「アンパンマン」がどうにかなるまで二か月分以上を費やした。
『とと姉ちゃん』と『あんぱん』は,その主人公はいずれも1920年前後の生まれで,母親と三姉妹とともに戦前,戦中を乗り切り,身近に才能のある男性がいるといった点で似ている。しかし,戦後に,一方は,「生活が大事」と苦しい女性たちの助けになろうと生活雑誌の創刊,刊行に邁進するが,もう一方は,まるで影のようになってしまう。
『とと姉ちゃん』では,秋野暢子から川栄李奈まで人物の性格が書き分けられ,大地真央は最初から老けていて,終始,親分肌のままで,早々に姿を消す。『あんぱん』の松嶋菜々子は,戦前から戦後まで容姿,年齢が全く変わらず,その場しのぎの発言ばかりだった。