ある都内バス路線の風習

 東京の品川と新宿の間は山手線で約20分であるが,別の公共交通機関として都営バス(都バス)がある。これは,品川駅高輪口と新宿駅西口の間を走る「品97」という路線で,泉岳寺前,古川橋,広尾駅前,西麻布,青山一丁目,信濃町駅前,四谷三丁目などを通って約1時間かかる。

 都バスの大多数の系統は,大人片道料金は210円で前から乗って先払い,中央で下りる。客の大部分はICカードで支払っている。バスには何種類もあり,1台1億円と言われる水素で動く燃料電池バスもある。どのバスも,前方は低く,一人がけの椅子が窓際に4脚から8脚あり,段差があって高い後方は二人がけの椅子が両側に4列ほど並んでいる。前方は多少広いのでベビーカーが二台乗っていることもある。

 昨年,この路線の青山一丁目と古川橋の間を三か月ほど,ほぼ毎日乗っていた。停留所によって異なるものの,平均4、5人の乗降客がある。後方には空いた席があるものの,前方の席はいつも全部埋まっていて,立っている人も数名いるのが通常である。

 途中に私立の小学校があり,午後には帰宅する十数名が乗ってくる。後方の空き席に座る者,立っている者とさまざまである。比較的,行儀がよいのだが,あるとき,中年の男が小学生にうるさいと怒鳴ることがあった。

 高齢者が乗ってくると,席が空いていて大体座ることができる。なぜかと言えば,バスが停留所に停まり,高齢者が乗ってくる気配があると,前方で座っている客は,周囲の様子を見て,年齢などから判断して自分が該当すると思ったら,さっさと立って後方に移ってしまうからである。その席がぽっかり空いているので,乗ってきた高齢者はそこに座る。これが繰り返される。

 おそらく,席を空ける客は,席を譲る際のやりとりを避けたいのだと思われる。「すぐ降りますから結構です」と言われてしまったり,あるいは何度も礼を言われたりするのが鬱陶しいのだろう。コミュニケーションを望んでいないことになる。他のバス路線でも同様なことがあるのだろうか。

 この路線で一度奇妙なことに出くわした。古川橋の停留所で乗った後,数人が後に続いた。後方にいたのでよくわからないが,最後に乗った女子中学生が料金を払おうとしたのだろうが,料金支払機が動かなくなった。運転手はあわててやり直しをさせたり,いったん電源を切ったり,バスの電気系統を遮断したりしたが,支払機は動作しない。運転手は何度も営業所と連絡していたがむだだった。結局,支払機は動かず,その後の停留所から乗ってくる客は無料となった。

 彼女はどのようにして支払機を壊したのだろう。古川橋の近くにはいくつかインターナショナルスクールがあるので,その生徒が支払機に対応できないコインを入れてしまったのではないかと,その後考えた。