おわら風の盆をかすめる

 8月29日に東京から北陸新幹線で富山に行き,駅前からバスで利賀芸術公園に向かった。利賀には以前にも行ったことがあるが,富山駅からの道は初めてだった。神通川の土手道を走ったあと八尾の町を通った。9月1日から3日まで「越中おわら風の盆」が開催されるため,町の中は通れないが,井田川に沿った道にはすでにぼんぼりが立ち並んでいた。

 今年1月にニューヨーク・タイムズ紙が「2025年に行くべき52カ所」(52 Places to Go in 2025)を発表し,日本では富山市と大阪市が選ばれた。八尾は富山市に属していて,この記事の中でも「9月はじめには,ぼんぼりで照らされたおわら風の盆の踊りが八尾の町を満たす」と書かれている。風の盆については,高橋治『風の盆恋歌』(新潮社,1985)で知り,何回かテレビの中継で観たことはあるが,現地に行ったことはなかった。

 「おわら風の盆」は300年以上の歴史があり,昭和初期には舞踊専門家などから教えを受けて,踊りやおわら節の洗練がはかられた。編み笠を目深にかぶり練り歩く女性の踊り手と,「哀愁」を帯びた胡弓と三味線,太鼓の地方(じかた)の音に特色がある。踊り手は10~20歳代が中心とのこと。富山に住む方から,11の町(支部)で手さばきや浴衣の柄,唄の歌詞が違っていて町同士の対抗心もあること,また行事が終わった後には30歳以上の引退した踊り手が舞い,これを目当てに訪れる客も多いと聞いた。

 この「おわら風の盆」には,三日間で20万人の見物客が集まる。しかし,狭い町中の通りが舞台なので,見物客はぎゅう詰めになる。近くの鉄道駅は「越中八尾」駅である。富山から帰りの車内で読んだJR西日本の広報誌では「おわら風の盆」が特集されていて,その中に「富山駅では混雑する時間帯を中心に,ご利用になる列車ごとに整理券を配布します(枚数限定)。お持ちでない場合は列車にご乗車いただけませんので,ご了承下さい」という注意書きがあった。鉄道で行くのは大変そうである。また,広い駐車場があるわけでもない。

 この日本一静かな祭りと言われる「おわら風の盆」は,小規模な町全体で作り上げた個性的な行事である。同じような祭りの成功例は他にもあるだろう。インバウンドの増加もあり,どこも個人が観光で訪れるのは難しくなっている。たまたま今回,時期と場所が近かったが,本格的に見物に行くにはハードルが高すぎる。