トランプ大統領と文書





 トランプ大統領が執着する「相互関税」は,様々な軋轢を生んでいる。これまで各国は,関税をできるだけ減らし,相互の貿易を発展させる方向で進んできたが,その流れに逆行する政策である。米国と日本の相互関税は,参議院議員選挙直後に妥結した。

 しかし,野党や新聞,週刊誌などは「文書化されていない」と懸念を示した。今月7日以前に米国側が発表し,即時実施された日本への関税には,日本側の理解と異なる点があった。赤沢担当大臣が訪米し,担当閣僚と交渉した結果,米国側の事務手続きに問題があり,近く日本側の理解通りに訂正されるとの発表があった。

 やはり,文書化されていなかったために,このような事態が生じたと批判されている。しかし,本も書類も読まないとされるトランプ大統領を相手に文書を交わすのは難しい。さらに,日本からの80兆円を自由に使えるといった大統領発言を考えれば,むしろ文書化しなかったことが幸いだったとも言える。

 契約書を取り交わさないなど,ビジネスの世界では考えられないと主張する人も多いが,ビジネスの慣習が何にでも通用すると思い込むのは危ういのではないか。トランプ大統領の「ディール」万能主義もまたビジネス慣習を国際政治に持ち込んでいる。

 この先どうなるかは不透明だが,トランプ大統領やその政権をなお「まとも」と考える人々はまだ少なくないらしい。米国憲法では関税を課す権限は連邦議会にあり,今回のように「1977年国際緊急経済権限法」に依拠して大統領が関税を決定することの妥当性が問われている。裁判所で妥当でないとされる可能性も大きく,そうしたら大混乱は避けられない。